ワールドカップ特別企画第一弾!
4年に一度のワールドカップ。サッカーサイトであるEalry☆Crossでも何かできる
事はないかと模索していた所、1ユーザーの方から、とある申し出がありました。
生でワールドカップに触れたフットボールバカの心の軌跡を書かせて欲しいと。
ここでは彼とワールドカップのヒストリーを描いてもらう事にします。彼にとって
この一ヶ月は狂気の一ヶ月となるのか、それとも至福の一ヶ月となるのか。ぜひご
期待ください。感想・ご意見は⇒(ID:020464 Y.Yanagi)

※等スレッドは一般のユーザーの方は書き込み禁止でよろしくお願いします。 (設立者: シニョーリの左足
題名
内容

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[00050] 久方ぶりの再会(2) 投稿者:Y.Yanagi 2002/12/30 03:23
 -そんなに自分達を卑下する必要も無い-と某管理人は言う。後半も大分過ぎてい
るというのにボクが口酸っぱく韓国に対しての羨望を言い放っていた。嫉妬にも似
た羨望。むしろ羨望という名の嫉妬。そういえばあるサッカージャーナリストが韓
国でのワールドカップに対する現象を羨望をこめて"ウリナラカップ"と称したらし
い。言葉の響きが秀逸で思わず賛同した人も多いと思う。ただ言葉を返すようなら
日本は本当にワールドカップだったのだろうか。日本も充分"日本制ウリナラカッ
プ"を堪能していなかっただろうか。ここまで来ると流石に自分も自身の女々しさに
気がつき始めていた。

 他人を羨むということは自分自身を否定する事である。自己を否定しては何も生
まれるものは無い。そんなことを管理人は伝えたかったのだろう。その言葉を言わ
れてからずっと試合中に考えていた。1−3のまま試合が終わると思われた後半4
5分宋鐘国が2点目を決める。この一点は大きな力を与える。日本もせめてあの雨
の試合で1点決めてくれていたらこんな憂鬱な気分を晴らしてくれていたかもしれ
ないのに・・・。まだ自己否定の世界は続く。

 試合後夜が明けるまでかの有名な某サッカーゲームを管理人と始める。自分が操
作する身近なワールドカップ。それぞれのチームをランダムで選び例え自分が弱小
国で相手が強大国でも試合をする。僕もこのゲームには結構自身があったのだけれ
ども、彼はEarly★Crossの管理を真剣にしていたのかと疑問を持つ位に非常に上手
い。結果としては僕の10敗負け越し。そんな僕が唯一この管理人を打ち破った僕
が操る韓国代表。その決勝点を決めたのはワールドカップに選ばれなかった李東
國。

[00049] 久方ぶりの再会(1) 投稿者:Y.Yanagi 2002/12/24 02:49
6月29日 韓国VSトルコ テグ総合競技場

 ワールドカップの三位決定戦は今まで真面目に見たことは無かった。大概の試合
では決勝に出られなかった脱力感の塊のような無気力な試合が多い。ただ今回は違
う。あの熱狂の中で韓国が情熱を失うわけが無く積極的に勝ちを狙いに来るだろ
う。そしてそれを迎え撃つトルコも侮れない。欧州で頭角を現しつつあるが世界サ
ッカーで無名な存在なのは韓国同様にトルコも変わらないことだ。こちらも3位の
座を積極的に狙ってくるだろう。今大会の代名詞ともなった"近年稀を見ない"試合
になる事は間違いない。にも関わらずにだ、親睦会(という名のコンパ)をこの日
に設定した我が友人が信じられなかった。ドタキャン濃厚。しかしどうせ3位決定
戦なんて面白くないから親睦会はこの日にしろよって言ったのは紛れも無い僕であ
った。

 新たな出会いをドタキャンするほどの大切なこの試合を-Early Cross-とかいう
サッカーサイトを運営しているシニョーリの左足と彼の家で一緒に見る。多少ヤケ
酒気味で焼酎でも煽りながら。そんな気分で久しぶりに年今日のあの赤色を外側か
ら見る。ついこないだまで僕はあの中にいた。そんなことを考えながら氷を焼酎で
浮かべたグラスを水で薄める。一点目が入ったのはそんな刹那だった。-おい入っち
ゃったよ-とは彼の声。

 キックオフのホイッスルが鳴ったのは覚えてる。どうせ最初は慎重に行くだろう
から点なんて入るもんでもないだろうと僕は焼酎を飲んでいてテレビから目を逸ら
していた。たぶん世界中で僕と同じ境遇の人が何万人もいるんだろうなとか馬鹿な
事を思いながら今度はじっくりとテレビのスローモーション映像を見る。チョンボ
は洪明甫、点決めたのはハカン・シュクル。韓国の精神的支柱でもあり、韓国を奮
い立たせてきた洪明甫。これまでの試合一点も獲る事が出来ず、どちらかと言えば
今回のワールドカップでは期待を裏切られた感があるハカン・シュクル。このベテ
ラン2人の絶妙なコントラストが変に面白かった。さぁどうする韓国。自然と焼酎
も進む。2杯目を作っているとイ・ウルヨンがコースギリギリの素晴らしいFKを決
め、飲み終わる頃にはイルハンが再び追加点を奪う。もう訳がわからなくなってき
た。別に酒のせいではないのだけれども。

 ほろ酔いになりかけ始めたところ試合も落ち着いてきて、色々な思い出話をサッ
カー馬鹿な男2人で話し始める。僕が韓国での体験を語り始めると彼は僕の話に耳
を傾け、時には反論する。そして僕は彼が日本対ロシア戦を見ていることを知らさ
れちょっと嫉妬する。僕が明らかに言葉少なになった頃、イルハンがさらに追加点
(またハカン・シュクルが絡んで)を決める。だいぶ酔ってきた頃にこれまた丁度
良くハーフタイム。サッカーは都合よく出来ている。<続く>

[00048] ボーダーライン 投稿者:Y.Yanagi 2002/12/07 01:56
6月28日 試合無し
 
 今日は久々に何人かの友達と会った。韓国の空港で買った真空パックのキムチは
発酵して、爆発するんではないかと思うくらいに膨らんでいたので一刻も早く土産
の約束をしていた友人に会わなくてはならなかった。

 -私ベッカムよりもカーンが好きになったわ。やっぱ男はカーンよね-とある女の
子が言う。僕はちょっと笑った。6月に入ってからの俄かベッカムファンとは違っ
て、彼女はサラサラヘアーの頃からのベッカムファンであった。(ちなみにベッカ
ム以外のマンチェスターユナイテッドの選手名は知らないという典型的な女の子で
ある)まだイルハンが人気が出るのは百歩譲って理解しよう。でも僕に言わせれば
好みがベッカムからカーンなんて天から地に落ちるようなものだ。ただその他にも
聞いていると意外にそういう女の子が多い事に気がつかされる。でも流石にバラッ
クが好きになったとか、ルシオが好きになったという女の子はいない。こんなのは
笑って許せる範疇で、僕としては予想通り。市井のワールドカップなんてこんなも
んだ。でもこんな事だけでは終わらなかった。

 -私ベルギー戦見てきたよ。鈴木のゴールが目の前だった-とまた別の普段はサッ
カーのサの字も言わない女の子が言う。僕は正直ショックを受けた。今日会わなけ
ればよかったとも思った。僕が必死にチケットを探している時に彼女は目覚め、僕
が無残に六本木に戻っていった時に、彼女は悠々と大手を振ってスタジアムに入っ
ていった。-試合当日までチケット余ってたんだけど、あんたはサッカー馬鹿なの知
ってたからもう持ってると思ってて電話しなかったよ。-そんなことまで言わなくて
もいい。僕は言葉で追い詰められて顔を引きつらせながら笑っていた。泣くに泣け
ず笑うしかなかった。僕がサッカー馬鹿だったから悪いのだろうか?そんなことは
無い。ただ運が悪かっただけだ。

 -僕と彼女を分ける境界線ってなんだろう-友達と別れた後にふと思った。何で普
段はサッカーなんて見向きもしない彼女が見れて、僕が見れない。そんなことを考
えた人は僕だけでなくサッカーファンには少なからずいるいはずだ。でも自他共に
認めるサッカー馬鹿な僕だって、もっともっと年季が入っている人に比べたら青二
才程度の者かもしれない。だから何だというのだろう。彼女に怒ればいいのか?シ
ステムを作ったお偉いさん達に怒ればいいのか?腐ったバイロムに怒ればいいの
か?運の無い自分に怒ればいいのか?

 彼女は別れ際にこう言った。-サッカー面白かったから今度はJリーグにでも連れ
てってよ-僕はこの一言が無かったら発狂して、のた打ち回っていただろう。この一
言が単なる戯言ではない事を祈るばかりである。

[00047] 嫌韓騒動 投稿者:Y.Yanagi 2002/11/14 03:01
 6月27日 試合無し

 朝起きてパソコンを起動してメールをチェック。一通りのお気に入りのサイトを
徘徊しながら朝飯が出来上がるのを待つ。ここは間違いなく日本で、ここは間違い
なく僕の部屋だ。当たり前の普段通りの生活を実感する

 いわゆる嫌韓騒動に気がついたのはネットを徘徊して間もなくの事。最初は半分
笑いながら見ていたものだったが、徘徊するうちに事の深刻さに気がついていっ
た。僕のよく見ているサイトのほとんどが極度の嫌韓論調であったからである。僕
は韓国での出来事を頭の隅で思い出してちょっと悲しくなった。しかし僕がもし韓
国に行かないで日本に滞在していたならこの騒動に荷担していたかもしれない。

 僕もそうだが大概のサッカーファンという人は、人一倍夢見がちで感傷的な生き
物であると思う。嫌韓騒動に巻き込まれた人、乗っかってしまった人はサッカーフ
ァンそのものである。例えるならワールドカップという幻想に現実を忘れてしまっ
たワールドカップシンドロームという病気に取り掛かってしまった人達なのだ。

 まだ三位決定戦と決勝戦を残しているが今回の大会は近年には無い非常に面白い
大会であったと思う。何より日本の初勝利という出来事があった。しかし逆に言え
ばイヤな事もあった。いわゆるバイロム問題。それに伴ったスタジアムの見苦し
く、悲しい空席問題もあった。そして最も悲しい代表的な出来事と言えばあの雨中
でのトルコ戦ではないだろうか?このやり場の無い鬱積な気分を加速させたのが韓
国の快進撃であったのであろう。神聖なワールドカップを汚す共催のパートナーの
隣国を許してはいけないと自負するサッカーファンの格好の標的になってしまっ
た。

 ナショナリティーとか、カネとか、政治とか。ワールドカップの裏側ではいろい
ろなモノが蠢いている。僕らサッカーファンというのは表側の一番綺麗な部分で踊
らされているにすぎない。むしろ綺麗な部分で踊っていたかった。けれども今回は
事情が複雑に重なってネットという世界でこの騒動が吹き出してしまったのだろ
う。

 僕はまだその現実を直視できなかった。むしろこの現実から思わず目を背けてし
まった。そしていつもより早くネットを閉じ、朝飯も食べずに家を出ていった。

[00045] We will make new history, But...(2) 投稿者:Y.Yanagi 2002/11/01 02:40
 成田から上野に向かう京成の中でとある日本人猛者と喋る。なんとその人はこの
ワールドカップの為に仕事を辞め日韓合わせて20試合以上見たという人だった。
あの試合は面白かったとかあの試合はイマイチとか逐一喋ってくれて面白かった。
彼は韓国で日本のユニフォームと交換したという韓国のユニフォームを着ていた。
僕は相変わらず青いユニフォームを着ていたので京成線の車内では一つの日韓共催
が行われているようにも見える。別れ際に今日の埼玉スタジアムは?と聞くと。も
ちろん行くとの声。彼は家がさいたまスタジアムの近くらしく、久しぶりに家に帰
ってからスタジアムへ向かうと苦笑しながら言っていた。僕も試合をスタジアムで
見るかは別にして一度家に帰ることにした。

 日本に帰ってきてすぐに気がついたのは日本では既に一般人の感覚ではワールド
カップが終わっていた事である。それが日本が負けた時なのか、それともベッカム
のイングランドが負けた時なのかは知らない。とにかく人々の関心は既に冷め切っ
ていた。それは成田に着いた時から、上野に着いてなお一層感じられた。今日さい
たまでワールドカップの準決勝が行われるにも関わらずに。熱狂の世界から日常の
世界に戻る。まるで夢の世界から現実へ戻った浦島太郎のような感覚である。僕は
急に日本のユニフォームを着ているのが恥ずかしくなってさっと脱いだ。

 家に着いて久々に自分のベットで寝転がる。やはり自分のベットが気持ちいいま
だまだ時間があると油断していたのが不味かった。はっと目が覚めると既に夜20:
00。もうさいたまスタジアムにはどうしても間に合わない。よく考えれば今日は飲
んでいて寝ていないのだから目が覚めないのも当たり前といえば当たり前。久しぶ
りに家のスカパーを点けて、ロナウドの素晴らしいゴールを見たら瞼がまた重くな
ってきた。また夢の世界へ逆戻り。そしていわゆる嫌韓騒動という現実を知るのは
この翌日であった。

[00044] We will make new history, But...(1) 投稿者:Y.Yanagi 2002/11/01 02:12
6月26日 ブラジルVSトルコ さいたまスタジアム2002
 
 もう一つの準決勝が日本で行われるその日の朝僕はまだ韓国のソウルにいた。飛
行機の関係上朝の6時には宿を発たなければならないのに結局宿に帰ったのは夜も
白々となりつつある明け方5時。寝たらそれこそ命取りになるのでこのまま起きて
いる事にする。それにしても何でこんなことになってしまったのだろう?ぼっとし
ながらテレビを点け昨日の準決勝の試合の再放送を見ながら考えている。確かに言
えるのは今日もほろ酔い気分で気分がいい。

 郊外にあるスタジアムから宿のあるソウル中心街へ戻ってきた時には既に日付は
今日になっていた。朝が早いということもあったので急いで宿に戻ろうとしていた
ハズだった。しかしある屋台の前を過ぎようとした時にゅーっと伸びてきた手に掴
まれそのまま屋台の席へ。酒好きの僕としては断る術もないのでこのままタダ酒で
ある。笑いながら時には真面目に色々な事を語った。日韓のサッカーのこと、今回
のワールドカップのこと、第一にお互いの健闘を称え、いわゆる誤審の事も語っ
た。そして話題はサッカーだけでなく政治の話や、僕ら民族の話まで。周りには僕
と同世代の若者だけでなく、どうみてもコメディアンにしか見えない自称アクタ
ー、凛々しい元軍人のテコンドーマスター、日本の横丁にもいそうな飲んだくれ親
父まで多種多様と言うよりは異種異様な面々。残念ながらあまりにも飲みすぎて話
した詳細を全て一言一句までは覚えていない。でもその場所が楽しかったのは事実
である。そして僕は彼らとの別れ際にこう言った。-We will make new history-
別にその場を盛り上げようとしたわけでもなく、酔っ払ってその場に居合わせた可
愛い女の子に格好よく見せようとしたわけでもなく普通に言っていた。たぶん一週
間韓国で過ごした謙虚な僕の感想。僕にその気はないんだけど、目にうっすら涙を
浮かべて抱きしめようとする野郎までいた。

 韓国は思っていた以上に良い国だった。正直に言うとあまり良い印象を抱いてい
なかったのは事実で、日本代表のユニフォームを着ていたら唾でもかけられるので
はないかと内心思っていたほどだ。ユニフォームにプリントしてある国旗を指さし
てイヤな顔をされたこともあったけど、いい事ばかりといった方が正しいはずた。
試合会場までタダで送ってもらったり、飯を奢ってもらったり、タダ酒飲まされた
りといい事尽くめである。少なくともホスト国の役割は充分すぎるほど果たしてい
た。僕は果たしてホスト国の責務を果たしていたか?と自問さえもしたほどだ。僕
は本当に贅沢者だ。主催者だけでなく歓迎者の立場を一大会で味わえたのだから。

 予定通り朝6時に宿を発つ。昨日赤いTシャツを着ていた宿のおばちゃんに別れを
告げて、一路空港へ向かう。成田に着くのは13:00。充分夜の準決勝会場に間
に合う時間であった。<続く>

[00042] セミファイナル(3) 投稿者:Y.Yanagi 2002/10/18 16:52
 試合が終わったからといってこのまま直ぐに帰るのも名残惜しかったのでスタジ
アムの中をしばらく徘徊する事にした。2階席からピッチを見下ろすとドイツの選
手が数人軽いランニングをしてクールダウンをしている。その周りの一階席には選
手達を拍手で賞賛し称える多くのドイツ人サポーター。これはこれで素晴らしく、
あぁワールドカップだなぁって多くの人は感じるだろう。それより僕が笑ったのは
この一階席のドイツ人サポーターを背に2階から-ファイブワン!ウィンイングラン
ド!-と大声で叫びながら写真を撮るお馬鹿なイングランド人の若者2人。

 ドイツの選手がクールダウンを終えピッチから去り、それに伴ってドイツのサポ
ーターもスタジアムから出て行く。僕が一階席に降りていくと今度はスタジアム中
で写真撮影会の始まりだ。施設関係者やVIPの人だけでなく、ボランティアの若者や
果てにはVIP勤務のシェフさんの集団までが観客席だけでなくピッチの周り、ピッチ
まで進入して皆が思い思いの撮影会を始めていた。そんな微笑ましい光景を片目に
メイン側の席を歩いていると不意に起こるボランティアの黄色い大きな歓声。もう
選手は記者会見を終えているはずだし、だれか韓国の芸能人のスターでもいるのか
な?とその瞬間僕は思った。しかし目の前のピッチいたのはフース・ヒディングで
あった。

 そこにいた誰もが信じられないといった様子であった。そりゃあ僕だって信じら
れない。試合を終え、記者会見を終えた後にわざわざピッチまで彼は戻ってきた。
何か思うことでもあったのか?それは僕にもわからない。彼はしばし佇む。すると
また不意に動き出して、ピッチからドレッシングルームへ戻るコースを使わずに、
わざわざメイン席を登ってボランティアの歓声とフラッシュを浴びながらスタジア
ムの中へ戻っていった。僕は韓国代表選手さながらすっかりヒディングの魅力に骨
抜きにされてしまっていた。韓国の現人神ヒディング。彼は確かに存在していた。

 その後お約束ということで僕もピッチに侵入したことは言うまでも無い。試合後
も散々堪能した後深夜のソウルの街へ戻る。今日は準決勝が終わりこの強行韓国ワ
ールドカップの旅も終わりということで本当によく寝れそうだ。というよりは早く
寝ないといけない。実は明日の埼玉スタジアムに間に合うスケジュールを組んでい
た為に朝一でソウルを発つことになっている。でも屋台街を通り過ぎようとすると
今日も韓国人の若者グループに手を掴まれてそのまま屋台のテーブルへ。どうやら
二日連続で今日も飲まされるようだ。この時僕は飛行機の中まで寝れない事を腹に
括った。

[00041] セミファイナル(2) 投稿者:Y.Yanagi 2002/09/29 17:31
 地下鉄に揺られワールドカップ競技場前の駅に着く。競技場前は凄い人の数
でごった返している。ここも大半の人がチケットを持っていない冷やかしで、
競技場前のイベントに参加する子供の手を引くお婆ちゃんがいたり、外国人サ
ポーターと家族の写真を撮るために借り出されたパパがいたり。決戦に備えて
ヒステリックな感じはそれほど見られない。日本がこの状況だったら僕は興奮
して発狂してるんじゃないかと思うので不思議な感じもする。外国人な僕も可
愛らしい子供と一緒に写真を撮られる。

 スタジアムに入る頃には陽も落ち始めていた。スタジアムから見えるソウル
北部の山がオレンジ色に映えていてとても美しい。この太陽がすっかり落ちた
ら試合が始まる。既に競技場内はオレンジどころではなくもちろん赤一色であ
った。昨日満ちていたらしい丸い月がひょっこり見え出した頃に試合が始まっ
た。

 スペイン戦とは明らかに韓国の雰囲気が違うなぁと思ったのは車ドゥリのシ
ュートをカーンが弾いた惜しいシーンだったろうか、それともシュナイダーが
ロングシュートを放った頃だったろうか。韓国選手の体力が落ちているからと
いうわけではなく、別に公正に裁いてる審判がいるからというわけでもない。
選手は貪欲にそして狡猾に試合を運んでいるように見えたし、明らかに決勝を
狙っていたと思う。むしろ観客側だ。確かに横浜へ行くぞと意気込んでいる人
たちもいたが大半の人はもう良くやったという感じの鑑賞モードなのである。
3位決定戦は韓国でやるのだしわざわざ横浜に行かんでもみたいな雰囲気が顕
著に表れているなぁとも思った。それにこの日は恒例行事のウェーブも少なか
った。

 試合は相互打ち合いになり後半30分にバラックが力強いゴールをねじ込
む。韓国はいい場面を作るも精力を使い果たしたようである。後半から出てき
たアンジョンファンの運もどうやら使い果たしたようだ。お馴染みのカーンだ
けでなくイ・ウンジェの素晴らしいセーブもあったが、それも適わずそのまま
試合終了。ドイツは横浜へ韓国はテグへ。これはこれで韓国的にはOKなんだろ
う。丸い月はいつのまにか空高くに昇っていた。<続く>

[00036] セミファイナル(1) 投稿者:Y.Yanagi 2002/09/20 01:11
6月25日 ドイツVS韓国 ソウルワールドカップスタジアム

 酒のおかげで今日は心地よく眠れた。例の如く昼過ぎに目が覚める。外はすっか
りいい天気で今日の試合を祝福しているようにも感じる。いくら昼過ぎに目が覚め
たとは言え、試合が始まるのは夜20:30。とりあえず会場に行く前にソウル市
庁前に立ち寄っていこうと思う。30万人とも40万人とも言われる集団が大型ビ
ジョンの前に集まるというあの場所だ。サッカーにはあまり関心無さそうだった宿
のおばちゃんまでもが-Be The Reds!!-Tシャツを着ている。楽しんで
らっしゃいと一言言われて宿を後にする。
 
 韓国は言わずと知れた車社会である。地下道が多いけれども日本とくらべると横
断歩道は少ない。また青信号で渡れる時間がメチャクチャ短い。なにしろ交通量も
多い。僕が韓国に来て喉をやられた原因の一つはこの車の吐き出す排気ガスかもし
れない。何を言いたいのかというといわゆるこんな車社会である韓国の中心街にあ
る市庁前一地区の道を塞き止めて市民に無料で開放するという計らいが凄いなって
ことだ。東京だったら渋谷一帯を、または新宿一帯を塞き止める・・・・。想像す
るに難い。日本にサッカーで何十万もの人々が一緒に熱狂できる場所はまだ無い。

 市庁前に近づくに連れて赤いTシャツに見を包んだ人や、韓国の国旗の-太極旗-
をアレンジして着飾っている人が増えてくる。市庁前付近一帯は朝から全ての道を
封鎖というわけでなく徐々に徐々にと交通整理していくようだ。すると封鎖された
ばかりの道のど真ん中で数人の韓国人がサッカーボールを蹴りはじめた。しばらく
していると欧米人もその輪の中に入ってくる。もしカメラを持っていたら写真に撮
りたい一コマだった。それはサッカーマガジンの-木曜日のボール-にもし載ってい
たらほくそ笑みそうな一コマであった。すると羨ましそうに僕が見ていたように彼
らは感じたのだろうかボールが目の前に飛んできた。僕は誇らしげに軽くリフティ
ングしてまた輪の中へボールを返す。ちょっと歓声が起きて逆に恥ずかしくなって
その場を後にする。まだ人が埋まるのには時間がかかるからしばらく彼らはボール
を蹴っているだろう。

 市庁前に着くと既に中心の絶好の席は埋まっていてたくさんの人でごった返して
いる。周りには仮設のスタジオや、インタビュースポットがいつの間にかできてい
てテレビのクルーが世話しなく動いている。周りに設置してあったメッセージボー
ドをふと見ると読めないハングル文字の隣にYokohamaと書いてある文字が
見える。Yokohamaの文字を見るとワールドカップももう終わるのかと思っ
て急に我に返って寂しいような切ないような感じになる。せっかくだからこのメッ
セージボードに何か書こうと思ってマジックペンを手に取る。

Show Me Pride Of Asia!!
But,We Will Win Asia Cup!!
From Japan

と書いた。誰か後で見た人が笑ってくれればいい。そんな軽い気持ちで。
<続く>

[00035] 決戦前夜 -泥酔中- 投稿者:Y.Yanagi 2002/09/09 00:17
6月24日 試合無し

 今日もソウルは雨。観光客とは思えないぐらいに宿で昼過ぎまで今日も寝てい
た。いくらワールドカップがメインとは言え、韓国まで来たのだからソウルを観光
気分で歩く。今日はサッカー抜きでと思うけれども、嫌でも目につくのはサッカー
関連。何かネタになりそうなモノを今日は物色しよう。

 あのBe The Reds!!Tシャツは屋台で普通に売っている。何軒か回って
いると売っているお店によっては微妙な違いがあると気がついた。ロゴの位置が違
ったり、微妙に染めの色が違ったり、ヒディングやアンジョンファンがTシャツの
裏にプリントされているものや、果てにはスポンサーのYahooや現代自動車とのコラ
ボレーションTシャツ(たぶん無許可)まで。ハナからオフィシャルの-Be Th
e Reds-というものが存在しているかどうかも知らないけども。またこのTシ
ャツが安いものは700円から(あくまで日本人価格)といったもので非常に安
い。韓国中真っ赤になるわけだ。とここでもワールドカップで培った交渉力を発揮
して600円でノーマルタイプを購入。

 今日は屋台尽くしということで、夕食もやはり屋台で。立ち食いの屋台には普通
のお店よりも安く済ませられる(一皿大盛りで100円)という手軽さで若者カップル
も多く見える。そんな羨ましいカップルを横目に座ってお酒が呑めそうな屋台を探
す。とぼとぼ歩いていると屋台飲み屋街に偶然出くわしてそこへ入っていく。ちら
ちら目をやるとお店のおばちゃんに手を握られ半ば強引に座らされてそこの屋台で
呑むことに。うーん直情的と言うべきか情熱的と言うべきか。どれを頼もうかと悩
んでいるとまた手を別の男性に握られ韓国人男3人が居座る別のテーブルへ拉致ど
うやら日本人の僕と呑みたいらしい。韓国まで来て男と呑みたくはなかったけどこ
んな夜も悪くは無いだろう。

 話をしていると明日の試合の為に近郊の都市からソウルまでやってきた人達らし
く酒の肴にたどたどしい英語同士でサッカー談義に花が咲く。僕は頼んでもいない
のに料理がどんどんきて周りのテーブルからも人が集まってきてちょっとした宴会
状態。時折可愛い女の子に写真を一緒にとせがまれたり、酒を酌み交わしながら日
付が変わる深夜遅くまで談義は続く。タダ酒も何本空けたのかわからないくらい呑
んだ。僕はすっかりいい気分で-今日の韓国の勝利を願っているよ-と自分でもビッ
クリするようなことを言い出していた。酔ったせいか?それとも自分の心の変化が
出てきたのか?

 別れ際にテーハミングコールで煽ると、お返しと言わんばかりにこれまでで一番
盛大なニッポンコールを受ける。空をふと見上げるといつの間にかボールのような
満月が出ている。どうやら今日は晴れそうだ。願わくば素晴らしい試合になります
ように。そう思いながら千鳥足で宿へ戻る。

[00033] テレビを見て(2) 投稿者:Y.Yanagi 2002/09/01 01:00
 このバラエティ番組というのがいわゆるサッカー珍プレー&好プレー集番組。早
速韓国VSイタリア戦の試合映像を編集して放映している。これが面白い。番組の構
成的には試合の珍プレー&好プレーハイライト、みのもんた風の韓国人タレントと
アナウンサーと思われる男との試合観戦ドキュメント、そして車 範根が解説で居座
る実況席の映像がバランスよく折り込まれている。いわゆる疑惑のシーンも余す所
なく放映している。トッティの肘打ちシーンや、肘打ち仕返しした韓国選手のシー
ン。もちろん疑惑の退場シーンも。

 車 範根の面白い所は解説者なのに解説をしていないところだ。もう試合途中にな
ると我を忘れて実況のアナウンサーより喋って解説無しのダブル実況と言った感
じ。これがきっと魅力的なのだろう。僕は実況席映像から映るフランス大会予選の
日韓戦での仏頂面で怖いイメージしかなかったので逆に滑稽さえ感じる。そんな彼
も人の子。息子の車ドゥリが途中出場でピッチに現れると急に冷静さを取り戻し
た。これも笑えた。この感じは日本の著名人の誰かに似ている。そう車 範根は韓国
のいわゆるひとつのナガシマシゲオなのだ。

 車 範根は韓国でとても人気が高い。今現在の監督の中ではヒディングの次に人気
が高いと思われる。人気が高い理由は僕でもわかる。この彼の持つ熱さに韓国の人
は心動かされるのだろう。あと車 ドゥリに対する親馬鹿ぶりも。僕がナガシマシゲ
オに似ていると思ったのはこういうこと。国民から人気があって息子には甘い。畑
は違えど似ている親子。日本のサッカー界にはまだこのような環境に置かれた親子
はいない。これも韓国の一日の長といったところなのだろうか。車 ドゥリの惜しい
オーバヘッドシュートが放たれた時の車 範根はもう一人の親の顔だった。(試合後
アナウンサーから-今日の息子のデキはどうでしたか?-という質問に苦笑いしなが
ら-45点だ-と言ったのも笑えた)

 その後トッティの退場シーンが流れ、(ご丁寧に局部アップスローモーションま
で)韓国に入ってから飽きるほどに見たアンジョンファンの劇的なヘディングシュ
ートがイタリアゴールに突き刺さる。勝利に抱き合い叫びあう実況席が映り、その
後に目の前で行われた試合に疲れ果て呆然とする韓国版みのもんたと局アナが映
る。喜びよりも呆然とする方が人間としては正しいかもしれない。あんな劇的な試
合を見せられたのだから。そんな呆然としている2人の横を見慣れた青いユニフォ
ームを来た若者が-Congratulations!!-と握手をして通り過ぎてい
く。このシーンが唯一韓国で共催をメディアから感じた瞬間であった。

[00032] テレビを見て(1) 投稿者:Y.Yanagi 2002/08/28 01:49
6月23日 試合無し

 ソウルの宿で二度寝から目が覚めるともう午後の昼下がり。久々に布団に包まっ
て横になって寝たのがよかったのだろう。すっかり体もよくなった。ソウルへ帰っ
てきた明け方の精根尽き果てていて、死人のようにふらついている状態に比べれ
ば。今日のソウルは雨。ソウル中の熱気を無理やり冷やしているようにも思える。
傘も持っていない病み上がりの僕は今日は宿に篭るとしよう。

 とは言っても何もする事もないのでとりあえずテレビをスイッチを押す。相変わ
らずイタリア戦の翌日のように電波ジャック状態。音楽番組を見れば歌手が歌の間
奏中にテーハミング。家族参加クイズ番組を見れば家族紹介の意気込みシーンで家
族全員でテーハミング。CMではピルスンコリアが流れ、ニュースは相変わらず韓
国代表の為のニュース。ニュース映像であの真面目の固まりのように見える洪 明甫
がスペイン戦後の代表宿舎で無邪気に笑いながらお祝いに出されたケーキをコーチ
に投げつけているシーンが流れた時には流石に驚愕した。しかもその後柳 想鉄や
崔 龍洙と一緒に応援歌を歌いながらホテルの周りにいるファンを煽って一緒に騒い
でまでいる。繰り返し言うあの洪 明甫がだ。基本的に韓国は日本より年上を敬い尊
敬の念が強いと聞く。だから洪 明甫のコーチに対する行動は歓喜の余りとは言え普
段では考えられない事だ。彼の喜びには計り知れないものなのだろう。選手として
のキャリアの終盤でワールドカップ初勝利を、そしてまだ見ぬ新しい境地へ。

 ニュースを引き続き見ていると、これまた韓国の英雄車 範根が映る。前回のフラ
ンスワールドカップ予選で日本が苦しめられたあの監督。そして選手時代には小野
よりとうの昔にUEFAカップを獲っていた名FWでもある。ニュースにはどうや
らインタビュアーとして参加しているようで準決勝で当たるドイツの監督でこれも
また名FWであったルディ・フェラーと抱擁している姿が映し出される。ブンデス
リーガ名FW繋がり。この2人が何を話しているのかは全くわからないけれども話
は盛り上がっているようだ。この韓国の英雄の人気は韓国人内で高い。オランダに
5点取られてクビになった監督なのに。だがこのオッサンの人気の理由はニュース
後のバラエティ番組で判明した。<続く>

[00031] 羨望と嫉妬(5) 投稿者:Y.Yanagi 2002/08/19 01:05
スタジアムに入る直前にスペイン代表を応援する名物親父"マノロ"に出くわす。ス
ペインサッカーに明るい人なら知っているかもしれないが赤い太鼓に名物のベレー
帽を身に付けている姿で有名なバレンシア親父だ。多くの人から写真をせがまれて
いる彼に-今日のスコアは?-と聞くと-3−0でスペインだ。-と一言。そんな彼を
見送りながらスタジアムに入る。スタジアムの周りは言うまでも無く真っ赤。その
多くはスタジアムに入るチケットが無く冷やかしに来た人たちと見える。こういう
人達を見ると否応無しに試合への期待が高まる。例え冷やかしだとしても試合への
盛り上げに充分一役買っているのだ。

 僕が入手していたチケットは韓国ホームサイドのG裏席。いわゆるレッドデビル
側。近くには韓国の民族衣装を纏っている人がいて、アジアンテイスト溢れるドラ
がシャンシャン鳴る側である。そんな彼らレッドデビルの後ろの席に僕は陣取る事
にした。いわゆるレッドデビル中心部の後方の席はぽっかりと席が空いている。こ
れは別にバイロムの所為ではなく空いた席の人たちは応援する為には前方へ行って
しまったのであろう。レッドデビルの後ろに控えるウルトラニッポン。ビールを片
手に高みの見物といこうじゃないか。FIFAアンセムと共に選手が入場すると大
歓声が起こる。笑ったのは入り口付近に控えるボランティアや警備員は仕事を放棄
していて、ピッチしか見ていなくて我先にと言わんばかりにカメラのシャッターを
押していた姿。サッカーはこれくらいお気楽な方が面白い。何より楽しい。
 
 -やっぱ国の歌があるっていいなぁ-試合中にふと思った。韓国の伝統歌のアリラ
ンを応援歌にできる事って羨ましく思う。日本の応援歌で日本古来の歌を歌うって
無いから余計にそう思ったのかもしれない。日本でも『島唄』をワールドカップ直
前に押し出そうとしていたが、『島唄』は日本の歌というよりは沖縄の歌という感
が強いし、何よりアルゼンチンで流行った後に押し出したという後手後手が強くて
感情を移入できなかった。第一に日本固有の国民的な歌って何だ?思い浮かばない
のが悲しい。手に汗握る試合は続く。目の前でカシージャスは空を飛んでいる。

 あんな見苦しく思えたウェーブもこの日だけは韓国選手を鼓舞しているように感
じられていたのも不思議な思いがした。それは90分が終了して延長戦開始直前の事
だった。スタジアム全体に大きな大きなウェーブが起こった。あぁこのウェーブは
間違いなく選手に力を与える。そう感じた瞬間だった。選手が応援が、なによりこ
のスタジアム全体が羨ましくて不覚にも泣きそうだった。120分はあっという間に過
ぎていく。いよいよPK戦だ。

 黄 善洪のシュートはカシージャスにブロックされたように反対サイドからは見え
た。しかしボールは転々とゴールの中へ。逆のサイドは見難くて周りの韓国人も止
められた瞬間は溜め息が出て頭を抱えた人もいたが、黄 善洪の喜ぶ姿を見て一気に
大歓声へ。しかしこの歓声をかき消すようにイエロは老獪で素晴らしいキックを放
つ。決まった後にわざわざもう一回ゴールに蹴って、主審にボールを手渡すくらい
のふてぶてしさもある余裕。周りは大きなブーイングが起こっているが、韓国に行
った流れを取り戻そうとしているベテランの妙と言うべきだろうか。PK合戦は続
く。韓国、スペイン共に2人目、3人目とPKを決めていく。韓国が蹴る時は大歓
声が起こり、スペインが蹴る時は大ブーイングが起こる。4人目韓国のアイドル、
アン・ジョンファンが決め、韓国の女の子からも黄色い歓声が起こる。そして今日
の試合で最も輝いていたと言ってよいスペインの若手ホアキンがPKを外す。イ・
ウンジェコールがスタジアムに響き渡る。歓声と期待が渦巻くピッチに満を持して
登場した韓国の五人目は、アジア最高のリベロ洪 明甫。

 試合が決まった瞬間の記憶は無い。ただ揉みくちゃにされた記憶だけがある。自
分のJリーグの試合で何度も見た選手が勝利を決めるPKを蹴ったのが嬉しかった
という気持ちがどこかにあったのだろう。周りの韓国人とハイタッチしたり、握手
したり、むりやり抱きしめられたりしながら勝利の喜びを分かち合う。

 冷静さを取り戻すと嬉しさの感情はどこかへ消え羨望だけが残った。羨望と言う
よりは嫉妬だ。赤一色でボランティアや警備員までもが試合に熱中しているスタジ
アムが羨ましかった。そしてこんなスタジアムでスペインに勝った韓国代表が羨ま
しかった。無邪気に喜んでいる韓国人が羨ましかった。なにより悔しかった。

 惨めな気持ちになって嫉妬はだんだん怒りに変わっていく。日本が既に負けてい
るのがまた思い出されて腹が立った。韓国の勝利を一瞬でも喜んでしまった自分に
腹が立った。日本戦を見れなかったのになんで韓国戦を見ているんだろうと自分の
無力さにも腹が立った。なんて自分は惨めなんだろう。それでも僕は韓国人に握手
を求められれば握手をしてやったし、泣きながら抱擁されたら耳元で
Congratulation!と言ってやった。なにより拍手で彼らを称えてやった。自分の心
の衝動はあれど、今日の試合には感謝しなければならない。むしろ今日一日に感謝
すると言った方がよいかもしれない。

 クアンジュの街に戻るともうお祭り状態で空には打ち上げ花火は上がっていて、
地上では子供達が手持ち花火で今日の勝利を祝福している。本当はセネガルVSトル
コ戦を見るつもりだったのだけれども、無気力状態で祝福の街をぶらぶら歩いてい
た。どっかに行ってしまっていた風邪がまた戻ってきたようだ。ちょっと寒気がす
る。

 ソウルへ帰るバスの中。乗って一時間もした頃だったろう。この二日間ですっか
り疲れて寝ていた僕は息を呑むような怒号で叩き起こされる。どうやらバスは止ま
っているようだ。サービスエリアではないようだ。そしてふと目をバスの前方にや
ると、なんと韓国人のバスの運転手と日本人が掴み合いの喧嘩をしている。事情は
全くわからないが、どう見ても異様な光景である。周りの日本人がこの2人を引き
離し、欧米系の男性が-Sit!-とすっかり我を忘れてしまっているこの日本人を無理
やり落ち着かせようとしている。おぉこれぞワールドカップ!なんて馬鹿な事を考
えて、いつもはお節介な性格でこんな状況なら真っ先に飛んでいく僕だけど、今は
全く元気が無いのでまた寝ることにする。何事も無かったように深夜バスはまた動
き出しソウルへ進む。まだまだ韓国のワールドカップは続く。

[00029] 羨望と嫉妬(4) 投稿者:Y.Yanagi 2002/08/09 03:22
 店の中は客も店員までもいなくて、ただクーラーだけが世話しなく動いている。
徐々に蠢いてきた外の異様な熱気と比べると、この場所だけがとても冷ややかであ
る。この国の大一番の試合が催される会場都市の公式ショップとは思えなかった。
店内のグッズは韓国色というわけでもなく、ほとんどの商品は日本と全く変わらな
くてお土産に買えそうなモノは1つもない。どうも公式商品というのは好感が持てる
グッズが少ない。高価でこれならまだ一見粗悪そうに見える露天のコピー商品の方
が人情味がある。と買う気も全く無い商品をしばらく眺めているとこれから僕の天
使となる店員が現れた。

 店員は何事も無かったようにアンニョンハセヨーと挨拶してきた。そしてまるで
僕の事を珍獣でも見るように覗き込む。日本人の僕が珍しいと言うより、客自体が
珍しいのだろう。そのように感じられた。僕はすかさずスタジアムへの行き方を聞
いた。-タクシーは今日はコリゴリだなぁ、シャトルバスでも近くに走ってねぇか
な。そしたらお金的にも楽に行ける-するとこの店員は-店を閉めてスタジアムへ行
こう!スタジアムに車で連れて行く。-と言い出した。ここは単なる店ではない。天
下のワールドカップ公式ショップだぞ。とはいえこんなオイシイ申し出を断る術も
無い。僕は呆れ、驚愕、感謝を通り越して笑うしか無かった。今日の出来事全てに
笑っていた。市外を抜けて坂道を一気に車は通り抜けていく。目の前にはゴールの
クアンジュスタジアム見えてきた。ここまでされてはもう韓国を応援せざるを得な
い。心からカムサムハムニダと言葉を残しスタジアムへ僕は行く。まだ試合開始前
だというのに僕の心はお腹一杯。昨日の試合はもうどこかへ行ってしまった。そん
な心境の14:00。<続く>

[00027] 羨望と嫉妬(3) 投稿者:Y.Yanagi 2002/08/02 00:16
 降ろされた公園の周りは大きな団地に囲まれていて、この付近は市街地というよ
り郊外の新興住宅地にといった感じ。見た感じではクアンジュスタジアム近辺でも
無さそうだけれども、この公園には赤いTシャツを着込んだ家族連れが多く、出店も
多く出ている。どうやらここでこれからスペインVS韓国のパブリックビューイング
が催されるらしい。タクシードライバーの人はチケットを持っていなくて、パブリ
ックビューイングを観に行く日本人とでも思ったのだろう。詮索しすぎた思いやり
と言うべきか、要らぬお節介と言うべきか。僕はただお腹が空いているだけなの
に・・・。このような仕打ちにうだるような熱さも加わって頭がクラクラする。す
っかり太陽も昇った昼12:00。

 自然と足が動いて公園を後にする。すれ違う韓国人の子供達は、もの珍しそうに
ブルーのユニフォームを着た僕を覗き込むように見て、そして目が合うとすぐにぴ
ゅーっと走り去っていく。そんな外国人気分を久々に味わいながら歩く。そして近
くにあったファーストフード店で今日は昼食。注文は照り焼きバーガーならぬプル
コギバーガー。日韓名前は違えど味は同じ。痛めた喉に甘辛い味がとても優しい。
今日だけはたとえ美味しいキムチでも食べたくない。

 そして店を出たのは13:00。さてどうしたものかと悩んでいると、なんとワ
ールドカップ公式ショップが目の前にあるので、とりあえず行き方でも聞くかと店
の中へ。そこで僕は地獄から天国行きの切符を手に入れる事になる。(でもこれは
ちょっと言い過ぎ)<続く>

[00026] 羨望と嫉妬(2) 投稿者:Y.Yanagi 2002/07/28 01:13
浅い眠りから覚めると既に11:00。体の調子は若干良くなったが、まだ喉が痛
い。これじゃあ今日はキムチは食えないなぁと考えながらブルーのユニフォームを
着る。気分はさながら銭湯から戦闘モード・・・やはり相当病んでる。再び外に出
た僕を直ぐに迎えてくれたのは日本にも負けないくらいの暑さと湿気。どうやら今
日は暑くなりそうだ。

 とりあえず帰りの切符を押さえにまたバスターミナルへ戻る。早朝とは打って変
わってバスターミナルの周りはもう熱気に溢れている。赤いTシャツを着込んで大
声で歌っている若者集団も多く、ここでもウルトラニッポン!ウルトラスニッポ
ン!!との声援を浴びる。元気が無い所為なのか、それともどこかにある悔しさの
所為かは判らないけど、もはや合言葉でもあるコリアファイテング!とかテーハミ
ング!とかのお返しコールを僕はまだ言えなかった。

 そしてバスターミナルの中にある薬局へ直行。もはや英語さえ喋る余裕も無くて
ボディーランゲージのみで喉が痛い事を伝える。すると薬局のオジサンは笑って昨
日の試合で声を出しすぎたんだねとこちらもまたボディーランゲージをしながら返
してくる。いやただの風邪なんだけどね。この成分も判らない怪しげな薬を即座に
飲む。するとこの薬が効いたような気がして直ぐに元気が出てきた。病は気からと
はよく言ったものでこの薬は差し詰め気休めという変な安心感と言ったものだろう
か。元気が出たら次は腹ごしらえ。タクシードライバーに光州の中心街らしい5.
18広場へ言ってくれと行先を告げる。でも降ろされたのはどう見ても中心街とは
思えない場所だった。<続く>

[00025] 羨望と嫉妬(1) 投稿者:Y.Yanagi 2002/07/23 23:03
2002年6月22日 スペインVS韓国 クアンジュワールドカップスタジアム

 やはりあの効き過ぎる空調にやられてしまった。喉が痛い、鼻水が止まらない、
体がダルイと典型的な風邪の初期症状。さらに風邪のおかげでバスの中で寝ていた
うちに相当な量の寝汗もかいたらしく、自分の体から相当な悪臭も感じる。そんな
クアンジュバスターミナル朝4:30。ターミナルには人は日本人と客引きの韓国
人がいるのみ。こんな夜明け前で当たり前だけど想像していた混沌の世界とはほど
遠く、まだまだ閑散としている。僕は一刻も早くシャワーを浴びて横になって寝た
い!とは思うけれどもこんな朝っぱらからホテルを探すのも面倒だし、ホテルに泊
まって寝るにしても今日の試合開始時間は15:30。万が一寝過ごしてしまって
は元も子もない。さぁどうしたものか。

 とにかくこのバスターミナルにいては何も始まらない。そう思って自然に体が動
き始めた朝5:00。東の空は白々と空けてきた。タクシーの運転手に言った言葉
は-I Would like to go Sauna!!-とりあえず寝るより先に風呂だ。寝るのはスタ
ジアム前のベンチでもいい。この判断は結果的に大成功だった。

 韓国の銭湯は日本の銭湯と何ら変わりはない。むしろ韓国の方が充実している。
銭湯には床屋や運動のジムが併設されていてなかなか面白い。そして今の僕にはと
てもありがたい事に仮眠室!まで併設されている。ちなみに肝心の銭湯の中身はど
ういったものかと言うと、日本同様に湯の張った大きな浴槽もあるし、シャワー台
だってあるし、サウナだってあるといった具合。大きな湯船の中に頑固そうな爺さ
んとはしゃぐ子供がいたりして、日本と同じ風景が目の前に広がる。ただ違うのは
彼らは韓国語を喋り、今はまだ朝6:00前ということ。そんなさっぱりして朝を
迎えた人たちとは対照的に僕は仮眠室で寝ることにする。ここではまだサッカーの
匂いは感じられなかった。<続く>

[00023] もやもや(3) 投稿者:Y.Yanagi 2002/07/18 01:42
 数少ないアメリカの応援に好印象を受けた。俺はメジャーリーグサッカーが大好
きだぜ!!っていう人たちがいるのだろう。そんな少数精鋭の応援に後押しされる
かのように、ピッチの上でアメリカチームは素晴らしいサッカーを展開していた。
シンプルで力強いサッカー。ポルトガルを破ったのも、あの韓国(オジサン曰く)
に引き分けたのもフロックではないようだ。2010年アメリカワールドカップ制
覇計画。こういうプロジェクトが裏では進んでいると聞いたことがある。それはま
るでかつてのアポロ計画のような無謀な計画かもしれない。さてどうなることや
ら。

 あんなにアメリカが嫌いだと言っていた隣のオッサンもアメリカの惜しいプレー
に落胆し、際どいプレーに奇声を発し、素晴らしいプレーには賞賛の拍手を送って
いる。周りの韓国人も似たような感じ。これはこれ、それはそれ、あれはあれ。彼
らのラテン気質に乾杯。

 そんな中で不意に起こるテーハミングクコール。煽動しているのはタダで見させ
て貰っている韓国人の悪ガキ学生集団。ただこの悪ガキ集団の気持ちはわからない
こともない。一種のイタズラ感覚なんだろうきっと。ただそれを叱るのが大人の役
目。でもすっかり唆されて大人も大声で叫んでいる。それも何の罪悪も無く心か
ら。

 ウェーブが起きるスタジアムの中でいろいろ考えた。スタジアムを旋回するウェ
ーブと同じくらい頭の中をぐるぐる回した。別に嫌悪感はそれほど感じなかった。
けれども混ざって騒ごうとも思えなかった。答えは出てこなかった。これはサッカ
ーじゃないのか?これはきっとサッカーなんだろう。答えは出てこなかった。歯切
れが悪いけど、これが率直な僕の感想だった。

 例えいいサッカーを展開していたとしてもそれだけでは勝てないのがまたサッカ
ー。目の前の大ボスカーンの壁は厚い。お久しぶりですカーンさん。鹿島以来です
が相変わらずお強いですね。そろそろ省エネで一点決めてくる頃ですね。あぁほら
バラックさんが決めましたよ。もう充分ですねカーンさん。いやぁ全くを持ってド
イツという試合。その後アメリカの惜しい場面が続くも試合終了のホイッスルが。

 そのホイッスルと同時にこの何とも言えないスタジアムから逃げるように出て行
く。こんな居心地の悪いスタジアムとはおさらばだ!!といううわけではなくて明
日の光州へ向かう深夜バスのチケットを一刻も早く入手するため。同じように急い
でいる日本人を見かける。あちらは最終の電車に乗るため。がんばれ同士。明日か
の地で会おう。

 昨日あんなにワクワクしていたのが嘘のように、僕は何とも言えない不安な気持
ちで光州へ向かう深夜バスへ乗り込む。目が覚めたらきっとそこはまた別の世界、
今日とは違う混沌の世界へ。そんなことを思いながら目を瞑る。バスの中の強い空
調がとても気になった。

[00022] もやもや(2) 投稿者:Y.Yanagi 2002/07/11 04:08
 まぁチケットはどんな試合でも余っているものだけれども、こんなに売人がいる
スタジアムは初めて。売人とは言ってもそのほとんどは素人の日本人。ちょっと聞
いてみるとイタリアであったり、ポルトガルを見たかった人の余り券だそうで。今
大会の波乱の多さをこんなところでも感じさせられる。結局そんな彼等の1人から
カテゴリー2のチケをボロ値で購入。わが国の同朋に感謝。

 会場の周りでは様々な催しが行われている。様々な国の人が催しに混ざっていて
正にワールドカップといったようなお祭りモードを演出している。それに対して僕
は移動の疲れが少しずつ出てきたみたいで、ちょっとベンチでグッタリモード。同
じような日本人の方と軽く談笑する。

 これが噂の動員部隊か!試合開始一時間前になった頃、にわかにスタジアム前が
韓国の小学生や中学生の集団でごった返してくる。やんちゃ坊主達を担任の先生と
思える人がしかりつけている姿が見える。こいつらがタダでワールドカップの試合
見れるのかぁと思うとちょっと憤りを感じるけれども、どうせ空席なら後学の為に
若い者に試合を見せる方がいいと自分で自分に言い聞かせる。この自分の判断が後
で大きな間違いだと気がつかされるんだけど。

 -スタジアムは最高だ!でもなんだこの空席は!!これがワールドカップの準々決
勝のスタジアムなのか?-
 
 とりあえずスタジアムの四隅は開いている。アメリカ側のゴール真裏一階の席も
空いている。僕が座っているドイツ側は比較的埋まっているが、既に動員されてい
ると考えるのが妥当であろう。選手たちのアップと共に、あの学生動員部隊がどん
どん入ってきた。笑ったのはこの動員部隊がとりあえずテレビ映りの良い所からど
んどん埋まっていくという光景。バックスタンド側の隅、アメリカのゴール裏、そ
してメインスタンド側の隅。試合前にはあれだけスカスカだったスタジアムのほと
んどが動員で埋まるというある意味で滑稽な姿も拝見できた。さぁ試合開始。

 突然隣に座っていた韓国人のオッサンに流暢とは言えない英語で話しかけられ
る。
-日本から来たのか?日本は惜しかったな。とてもいいサッカーをしていたのに残念
だよ。-
まぁ感じのいいオッサンだ。今日の試合、特にアメリカについて軽く話を振ってみ
る。
-アメリカには負けて欲しい。あいつ等は嫌いだ。-
とこのオッサンが言うので、アポロ・オーノか?と聞くと彼は違うと答えた。
-準決勝でアメリカに当たりたくないんだよ。彼らは強敵だ。グループリーグの試合
見たろ?-
思ってもいない答えに少々驚かされた。いくら韓国に引き分けたからと言ってアメ
リカがドイツより強いのかよ。韓国がスペインをも破って準決勝行くということを
全く疑っていないよ。なんだよこの自惚れとも思える自信は?

 試合はオッサンの予想通りアメリカが小気味好いサッカーでドイツを圧倒すると
いう試合で幕を開ける。<続く>

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